このゴシック体ロゴのSterlingSilverZIPPOはいつ頃製造されたのか?

SterlingSilverZIPPOのボトム刻印に短期間だけ使われたこのゴシック体ロゴ(上枠の画像X)。
このボトム刻印をもつSterlingSilverZIPPOはいつ頃製造されたのでしょうか?


<考察1>
 書籍『ジッポー名品コレクション』のあとがき(173頁)で紹介されている画像1のZIPPOは、1984年にジッポーファンクラブジャパンのメールサービス(通信販売)として販売されたSterlingSilverです。画像2はそのオーダーシートです。このオーダーシートに記載されているSterlingSilverのボトム刻印は1955〜1980年代前半のもの(画像A)であり、少なくともこのZIPPOの販売準備が行われていた時点(1983〜1984年)では、まだ画像Aのボトム刻印が使われていました。又、画像2では解像度の関係で読み取れませんが、このZIPPOには今で言うシリアル番号がついており、1984年のオーダー分は「X 001〜」、1985年のオーダー分は「XX 001〜」・・というようにオーダー時期によって「X」の数をふやすという独特のシリアル番号ルールがありました。1984年分、1985年分、1986年分を確認しましたが、全て画像Aのボトム刻印が使われており、インサイドユニットは1976〜1983年タイプが使われていました。
 よって、このZIPPOが準備されていた時期にはまだ画像Xのボトム刻印は使われていなかったと考えられます。(1985年分、1986年分にも画像Aのボトム刻印が使われているのは、発注量が多い方が1個当たりの単価が下がる関係で1983年頃の準備時点で ある程度の量を一括発注したためだと思われます。)


<考察2>
 ゴシック体ロゴがブラス製レギュラーサイズZIPPOのボトム刻印に使われ始めたのは1980年(画像B)から。画像Xのボトム刻印を持つ個体を複数確認したところ、装着されているインサイドユニットはどれも1976〜1983年タイプでした。その2点から特定すると、この刻印のSterlingSilverZIPPOは1980年〜1983年の間に製造されたと考えられますが、インサイドユニットは流通の過程で入れ替わっている可能性もあり、時期特定の根拠としてはやや弱いです。
 画像XのZippoロゴは確かに画像Bと同種のゴシック体であることには間違いありませんが、よく見ると、文字の太さが全般的に画像Xの方が細いように見えます。例えば、「Z」の上線や斜め線の太さ、或いは「p」や「o」のなどでも線の太さの違いが見て取れます。また、「p」の円弧の下側が「p」の縦線に接していないという点は画像X、画像B共通ですが、その離れ方は画像Xの方が離れています。
           
“Z”の比較           “p”の比較
            
       【画像X】     【画像B】     【画像X】 【画像B】
 一方、画像Cは1982年にZIPPO社創業50周年を記念して発売されたコメモラティブZIPPOのボトム刻印です。書籍『ZippoHANDBOOK2001』の冒頭でも紹介されている通り、この50周年コメモラティブZIPPOはZIPPOの存在を世に知らしめるのに大いに貢献しました。そしてその翌年の1983年にはソリッドブラスZIPPOが発売されました(画像D)。この2つのボトム刻印(画像C・D)に使われているZippoロゴは同じもので、いずれも当時のレギュラーZIPPOのボトム刻印に使われたZippoロゴ(画像B)と比べると文字の太さが細いという特徴を有しています。(ちなみに同じソリッドブラスZIPPOでも
1984年の途中からは画像Bと同じやや線が太いロゴに変更(画像E)されます。)
9〜12行上の比較視点で画像X・画像B・画像C・画像Dを比較すると、画像Xは、画像Bよりも画像C・Dに近いと言えます。
        
        【画像C】  【画像C】


<考察3>
(邪推含む)
 ブランドのロゴは、その商品が間違いなくその企業の商品であることを示す証であり、消費者はそのロゴにより商品の判別を行います。自分が店頭で購入したZIPPOのボトム刻印が、今までに見たことがない刻印だったとしたら、「これ、本物のZIPPO?」と疑念を持つように、使われるロゴが一定の認知を獲得していないと消費者に不信感を抱かせることになります。
 さて、1980年代前半、SterlingSilverZIPPOに使うZIPPOロゴを新しくしようと考えた場合、ZIPPO社としてはどういうロゴを新ロゴとして採用する必要があったでしょうか? SterlingSilverZIPPOは、ZIPPO社の中では価格の高いハイエンドラインの商品ですので、消費者に不信感を抱かせないという点については、特に配慮が必要だったと思われます。よって、あまり知られていないロゴではなく、ある程度消費者に認知されたロゴを採用しようと考えたと思います。事実、1955年にSterlingSilverZIPPOに使うロゴをイタリック体に変更した際も同時期にイタリック体に切り替わったレギュラー用のボトム刻印と同じものではなく、「1949年以降のストライプ柄の外箱」や「1948年〜1955年のZIPPO社の雑誌広告」で使用していたイタリック体ロゴを採用しています。ある程度消費者に認知されていたと思われるロゴを採用したわけです。

以上の考察1〜考察3を踏まえて画像Xのボトム刻印を持つSterlingSilverZIPPOが製造された時期を特定すると・・・
まず、1983年までは画像AがSterlingSilverのボトム刻印に使われていたので、画像Xの使用開始時期は1983年以降です。SterlingSilverZIPPOに使用する新たなボトム刻印は消費者に認知されたロゴでなければならないので、ZIPPOの認知拡大に大きく寄与した50周年コメモラティブの(ボトム刻印で使われた)Zippoロゴが採用されたのではないでしょうか。その50周年コメモラティブは1982年に大量に販売されており、認知が広がったその翌年以降に画像Cと同じボトム刻印をSterlingSilverZIPPOのボトム刻印として使い始めたのだと思われます。一方、遅くとも1985年には画像Fのボトム刻印に切り替わっていることが確認できています(画像Fのボトム刻印を持ち、且つ、カムクリップの端が面取りされていないSterlingSilverがある。画像@画像A画像B実物動画はこちら)。
以上より、画像Xのボトム刻印を持つSterlingSilverZIPPOは1983年〜1984年頃の製造と考えられそうです。更に、画像XのZIPPOに装着されたインサイドユニットの製造年(1976〜1983年タイプ)及び画像C・画像DのZippoロゴは1984年にはZIPPO社のボトム刻印から姿を消した(画像Eへ切り替わった)ことを加味すると、画像Xは1983年のある短期間のみ使用されたボトム刻印だったと考えられます。
(ホントかぁ〜?)
【画像1】 【画像2】
【画像A】
【画像B】
【画像C】
【画像D】
【画像E】
【画像F】
の考察
【画像X】